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一所不住



芦雪

昨日は「串本応挙芦雪館50周年記念」として、美術史家の山下裕二さんが串本の無量寺本堂で講演会を開いたので出かけた。題して「芦雪は楽し!」。

応挙芦雪館は1961年11月に開館した。
建設費用は地域住民の寄付であり、工事中は大勢の人が勤労奉仕に駆けつけたと伝えられる。
地域の文化財を大切にしよう、との熱意が結実した日本一小さな美術館であった。

せっかく半世紀を祝うイベントなのだから、案内パンフレットなり当日の主催者挨拶なりで建設当時の経緯に触れて、50年前の篤志ある人たちに感謝と敬意を表してほしかった。
礼節をわきまえるべし。

山下さんは確か、路上観察学会で赤瀬川さんや藤森さんらと街歩きをしていた、と記憶している。錚々たるメンバーの中では三下扱いだったはず、といっても20年以上も前のことだけど。
ところが近ごろではテレビや雑誌で売れっ子になっているらしい(見ないから知らない)。

この日は山下さんの師である辻惟雄さんも来場して最前列に陣取っていた。
日本美術のコレクター、ジョー・プライスが「一番好きなのは芦雪の『虎図』です」と本人から直接聞いた話から始めて、象の背にカラスや牛の足元に子犬が描かれている屏風の写真を見せながら、「最初はなんだろう、と思わせて開いていくにつれて全体が見えてくるように意図して描いている」。

掛け軸では、牛の正面図や岩の上のカエルなど大胆な構図で本領を発揮している。また虎図障壁画が虎の絵としては最大なら、一寸四方に500体の羅漢を描いた絵が発見されるなど、「芦雪は人を驚かせるのが好きな人だった」と嬉しそうに話す。『虎図』は襖の裏には猫に睨まれている魚の絵があり、その魚の目線で描かれているといわれている。

話の区切りごとに「だから芦雪は楽し!なんです」と何度も繰り返していた。
講演の後半部は「応挙あっての芦雪」として、兵庫県香美町の大乗寺にある応挙の絵を解説。「2年後、名古屋で大々的な応挙展を開く準備中です」と宣伝も忘れなかった。
1時間あまりの短い時間だったが、分かりやすくて聴きやすい講演だった。
# by rurou-no | 2011-11-13 16:06 | 美術

たなごころ

少し前に読んだ本に、堀江敏幸さんの『なずな』がある。
例によって連れ合いが図書館から借りてきたのを拝借した。
フランス文学者の著者が育児小説を書いている意外性に驚いたが、何よりも440ページという本の分量に圧倒された。

個人的に文庫本好きなのは、安い、軽い、小さい、の手軽さを支持しているわけで、こんな分厚い単行本は敬遠したかったが、連れ合いが「面白いよ」と勧めてくれたのと、仏文学者による育児小説のミスマッチに惹かれて読み出した。

地域新聞の独身記者が突然、弟夫婦の2ヶ月になる赤ん坊を預かるはめになったことから、周りの人に助けてもらいながら不慣れな育児に追われる日々を丹念に記録している。赤ん坊の成長を、記者らしい観察眼を駆使して克明に書いていたのがことのほか面白かった。

本の中で、赤ん坊のからだをきれいに拭いてやるとき、「ひかがみ」(膝の裏)、「おとがい」(顎の下)などの表現があった。
今日のタイトル「たなごころ」(掌、手のひら)もそうだが、日常的に使うことが少なくなった言葉を大事にしているところは、外国語を専門にしている学者だからか。

言葉は時代とともに変わっていくものであるという考えは否定しないが、今風の若者語で眉をひそめたくなる言葉があるのも事実だ。
昔ながらのたおやかな表現を、次世代へ教え伝えていくことを忘れてはならないと思う。

そして方言も。田舎では山を一つ越せば言葉が違ってくる。
その表現の多様性こそが豊かな文化を生み出す基になっているから、だんだん失われていくのはしのびない。
# by rurou-no | 2011-11-11 13:46 | 言葉・本

秋のソナタ

暦の上で「小春日和」に当たり、暖かで穏やかな一日である。と、いうよりも暑過ぎないか?
11月だというのに温度計は28度を示していて、小生は半袖のTシャツ姿やど。
アナログからデジタルの時代になったせいなのか、気候にも按配の良さがなくなって角が立つ。
節度をわきまえず、加減もしないでやりたい放題なのは困ったもんや。

ふと、『秋のソナタ』という映画のタイトルが頭に浮かんだ。
田舎暮らしを始めてから、日常的に映画館へ足を運ぶことがなくなったため、このブログにも映画の話題はあまり出てこなくなった。
ご飯を食べるのと同じように映画を観たり音楽を聴いたりして、生きていくのに欠かせないものだったはずが、いつの間にかなくても過ごせるように。多少の禁断症状はあっても、慣れてしまった。

『秋のソナタ』は、名匠イングマール・ベルイマン監督1978年の作品。
主演は銀幕美女列伝に燦然と輝くイングリッド・バーグマン(スウェーデン)と、公私ともにベルイマンのパートナーとして重要な役割を果たしてきたリヴ・ウルマン(ノルウェー)の2人。
北欧実力派美人女優が母と娘に扮し、正面からぶつかり合うシリアスな内容だった。

『カサブランカ』のイングリッド・バーグマンは、ハリウッドで花開いた。
初めてスクリーンで見た時、その美貌に打ちのめされ、北欧こそが美人の産地であると勝手に断定したほどだ。
またベルイマンの映画で確かな演技により深いテーマを体現させたリヴ・ウルマンからは、「知的美女」という新しいカテゴリーを教えてもらい、美人の定義が広がった。

どちらにせよ、まだ20代。新しい情報を貪欲に仕入れようと躍起になっていたころだ。
毎日が新鮮で常に更新を繰り返していた。誰にでもそんな時期はあるのだろう。
それから倍の年齢を数えて、随分と様変わりした。今は今で、よき日々ではあるが。
# by rurou-no | 2011-11-07 14:26 | 映画

リタイア

年寄りの冷や水!と嘲われているかもしれないと思いながら、9月は古座川町、10月は那智勝浦町と約2ヶ月間、台風12号の被災地でボランティアをした。
やっぱり年寄りの冷や水だったのか11月に入ってから、からだの疲れが取れず肉やら骨やら関節やらが軋んで悲鳴を上げだした。

現場で仕事をしているときは平気なのに、家に帰るとからだ全体が鉛のスーツで包まれているように重くなり、翌日になっても鉛は剥がれないままになってきた。
こりゃアカン。鉛を身に着けたままでは現場仕事はできん。ギブアップや。
というわけで、リタイアすることにした。
ボランティアのニーズも少なくなってきたとこやし、ここら辺でよしとしよう。

この9月、10月はラグビーのワールドカップがニュージーランドであった。
日本代表は予選リーグで敗退したせいもあったのか、あまり盛り上がらなかったようだ。
ちなみに優勝したのは、開催国のニュージーランド代表、オールブラックスだった。

そのオールブラックス出身のジョン・カーワンヘッドコーチに率いられた、チェリーブロッサムズは1勝もできなかった。
2大会連続で代表ヘッドコーチを務めたカーワン氏は、結果を出せないまま退任することになった。

一方でリーグ連覇という結果を出した、プロ野球中日ドラゴンズの落合監督も退任する。
彼のファンではないが、有言実行の職人肌的勝負師として評価していた。
類い稀な野球センスの持ち主だけに、球界を離れることになるのはもったいない。

風が冷たくなると花園ラグビー場のスタンドを懐かしく思い出す。ラグビーの季節だ。
当時、地元の近鉄ライナーズはいつも負けていた。今シーズンの調子や如何に?
人が少なくてガラガラのスタンドで、寒風に震えながら応援するのは妙に爽快な気分だった。
# by rurou-no | 2011-11-05 16:24 | 地域

鳥なき里の蝙蝠

小役人どもの振る舞いには、つくづく呆れてしまう。
福島原発の事故以来、放射能汚染の予測と実測データが手元にありながら、東電とグルになって公表しなかったのは経産省や文科省の小役人どもだ。
おかげで何も知らされず被曝してしまった住民が大勢いた。これは明らかに犯罪である。

だれも責任をとらないで責任の所在を曖昧にしたまま、同じ過ちをずっと繰り返してきた。
全国的に蔓延する公務員の事なかれ主義、仕事をしない習慣を定着させたのも、元はといえば中央の官僚がリードしたからに他ならない。
日ごろからそうだから、イザという時に役に立たないのだ。

そして重大な災害や事故が発生し人の生死にかかわる場合、この小役人どもの振る舞いは殺人罪、あるいは殺人未遂に相当する。残念なことに連中にはその自覚が無い。
鳥を知らないまま、蝙蝠を鳥と思わされ続けてきた国民のなんと不幸なことよ。

真実をきちんと伝えてこなかったマスメディアの責任は大きい。
大きな権力に飼いならされ、弱者に向かったときだけ偉そうにする姿はさしずめ「虎の威をかる狐」である。矜持はないのか、恥ずかしくないのか、と問いたい。

レベルが低いアホな政治家は論外として、こと原発問題になると思考停止状態な経済界はどうしたのか。儲けに聡く小賢しいはずではなかったのか。
ごく一部の企業家だけにしか動きがないなんて信じられない。

ともあれ、ベトナムへ原発を輸出することになった。
そして九州電力の玄海原発が1日深夜、運転を再開したという。
福島の事故は継続中だ。2日未明、2号機で核分裂反応が起き臨界状態になっているらしい。

わたしたちは本物の鳥を見つける努力をしなければ、えらいことになってしまうぞ。
# by rurou-no | 2011-11-03 13:43


一瞬を、永遠に

by rurou-no
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