函館にはオートバイで行ったのが先か、電車で行ったのが先か、どちらにしろ20~30年も
前のことになる。青森から青函連絡船に乗り、津軽海峡を越えた。
函館の青柳町こそかなしけれ
友の恋歌 矢ぐるまの花
北海道へ近づくにつれ、
啄木 の歌が頭の中から離れなくなった。
船の上で、函館に着いたらまず朝市でイカソーメンを食べて腹ごしらえ、そのあとは青柳町へ
行ってみよう と、その日のスケジュールが決まった。
路面電車の谷地頭行きに乗ると、終点の一つ手前が青柳町電停。啄木が函館に住んだのは
僅か4ヶ月余り。この青柳町に「啄木居住地跡」の看板が残されている。
そこから立待岬へ行く途中にあるのが、「石川啄木一族の墓」。歌碑が潮風に吹かれていた。
東海の 小島の磯の 白砂に
われ泣きぬれて 蟹とたわむる
立待岬は、風の岬である。津軽海峡の風と波と色と匂いが自然の厳しさを教えてくれる。
太平洋とも日本海とも違う海がそこで波頭を立てていた。
さて、いよいよ今日の本題 「
谷地頭」 だ。この変わった地名もいまだに忘れられない。
谷地頭には温泉が湧いていた。市営の谷地頭温泉、ナトリウム・塩化物泉。
湯は茶褐色で、タオルを濡らしたらたちまち薄茶色に変色してしまったので驚いた。
ずっと行きたいと思っていた青柳町は、何の変哲もないどこにでもある住宅地であった。
それでいい。その地に立って、その町の空気を吸えたらそれでいいのだ。