木枯し紋次郎、上州新田郡三日月村の貧しい農家に生まれたという。十歳の時、国を捨てその後一家は離散したと伝えられる。天涯孤独な紋次郎が、なぜ無宿渡世の世界に入ったかは定かでない。愛を求めてさすらう旅か、孤独を求めてさすらう旅か、縞の合羽に三度笠、口の楊枝がヒュウと鳴る、あいつが噂の紋次郎。芥川隆行 の名調子が耳にこびりついている。TV時代劇 「木枯し紋次郎」 の冒頭シーン。
上條恒彦 が歌う 「だれかが風の中で」 がバックに流れる中、山道を早足で歩く紋次郎。
♪どこかでだれかがきっと待っていてくれる 雲は焼け道は乾き陽はいつまでも沈まない 心は昔死んだ微笑には会ったこともない 昨日なんか知らない今日は旅をひとり けれどもどこかでお前は待っていてくれる きっとお前は風の中で待っていてくれる♪高校生のころはまだ TVをよく見ていたと思う。
笹沢佐保 の小説を原作に、
市川崑が演出していた。
主人公が泥臭くて不恰好で、それまで見たこともない時代劇に夢中になった。型をまったく無視したへっぴり腰のリアルな立ち回りは、単に斬り合いでしかなかった。
「あっしには関わりのねえことでござんす」 と言いながら、いつの間にか困っている人を助けている。クールでニヒルな主人公を体現していた
中村敦夫 は、カッコよかった。
ナレーションでは天涯孤独な紋次郎が、主題歌では風の中で待っていてくれるヒトかモノか、それを見つけるためにさまよっている。いったいそれは何なのか、いつも考えていた。
他人と距離を置こうとしながらも、関わらずにいられない旅烏、渡世人。徹底した個人主義が実は極めてヒューマンな心根の持ち主であった。新しいヒーロー像に喝采した。
同世代の男なら誰しも覚えがあるはずだ。爪楊枝を咥えて紋次郎を気取ったことを。