一所不住



てんでに

9月に入って、朝夕が涼しく感じられるようになった。今週は秋雨前線の影響か、気の早い「秋の長雨」到来を思わせる空模様だ。
それでも時おり陽が射せば、ギラつく光はまだ夏の盛りである。

秋の雨といえば、台風の時以外はシトシト降るイメージだったが、近ごろは「どっどど どどうど どどうど どどう」と、賢治先生が表現した風の音みたいな、「太い」雨が多い。
ちょうど4年前、紀伊半島に甚大な災害を起こしたのも、この雨だった。

タイトルは、先月末に読んだ本の方言が印象に残っていたので、「て」から始まる方言はないかと最初に「てがう」、次に「てんでに」を思いついた。タイトルに関連した中味を考えたところ、「てんでに」で件の本のことを書けるかも知れぬと、こちらを採用した。とまあ、ええ加減なもんや。
「てんで」ではバラバラがくっついて否定的なニュアンスになるが、「に」を付けると、「めいめい」の意味で否定の部分が消えて、ニュートラルになるから言葉は面白い。

宮本輝 『田園発港行き自転車』 群像劇である。登場人物たちが富山、京都、東京それぞれの街で交差し、運命の糸につながれた縁によって、最後はてんでにひとつの場所へ向かう。
前述の「方言」とは、主要な舞台となった富山弁のこと。

金沢在住の頃、職場のパートのおばさんが富山の人で、彼女の話し方がそのまま小説の中で話されていた(微妙な言い回しまで文字でうまく表現されてた)。
早世した友人も富山出身だったが、読みながらおばさんの声がしっかり聞こえてきた。

ゴッホの『星月夜』、愛本橋、船見城址から見た田園風景、黒部川扇状地と北アルプス、自転車で走る北国街道、と小説の中の場所へ立ちたいと思わせる筆致は見事だ。北日本新聞へ連載されたというのもむべなるかな、立派にふるさと自慢の役目を果たしていた。

「いい人」しか出てこないのでなく、その人のいい部分を見ていこうという作家の姿勢なのだろう。
このジジイが住む突端の町でも、書き方次第で魅力的になるんやろな、たぶん。
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by rurou-no | 2015-09-03 14:00 | 言葉・本
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