一所不住



泥中の蓮

先月は月初めに中上健次を読んだばかりに、その小説世界の大きさに圧倒されて、他の作家を読めなくなってしまった。本を開きはすれど、なんともつまらないのだ。中上だけ読んでいれば事足りると思ってしまうほど、はやりの言い方を借りると「中上ロス」に陥ってしまった。

そんな時に読んだのが、早川義男の 『たましいの場所』 。おかげでなんとか元に戻れたようだ。
続けて、中島京子の 『長いお別れ』 と 『かたづの!』 の2冊。彼女の小説は行間を読むのが大変面白い。 『イトウの恋』 『FUTON』 『ココ・マッカリーナの机』 『均ちゃんの失踪』 『平成大家族』 の順番だったか、著作のほとんどを読んでいるが、どれもニヤリとさせ外れることはない。

今回のタイトルは 『かたづの!』 の主人公である清心尼から連想した。江戸時代に実在した女大名をモデルとして民話や伝説など織り交ぜたファンタジー色溢れる内容だった。
戦で死ぬことこそ武士の誇り、とばかりに血気盛んな配下の者を理知で説得し、争いを避ける女城主。最悪を回避するため理不尽なことさえも受け入れて、領地の民とともに生きようとする。

『小さいおうち』 と併せて、この時代のこの国の状況に対する著者の強いメッセージを感じる。
といっても大っぴらに主張するわけでなく、あくまでも豊穣な内容の小説なのだ。
清心尼が「戦だ、戦だ」といきり立つ手下を抑えたあと、一人になってから「莫迦、愚か者、間抜け」など(手元に本がないので正確でない)罵詈雑言を言い放つ様が痛快である。

問題が起きたとき、戦いで決着をつけようとすれば多くの命が奪われる。知恵を駆使し話し合いで相手を納得させ解決を探る姿勢は、そのまま現代社会でも通用する普遍的な命題だ。
知性なき権力者は戦いを好む。そこには血を流し命を奪われる人びとへの想像力はなく、常に安全圏にいて権力欲を満たす自分のことしかない。

清心尼の爪の垢を煎じて飲ませたい、阿呆のなんと多いことよ。
せめて 『かたづの!』 が広く読まれるよう願う。
by rurou-no | 2015-07-02 14:49 | 言葉・本
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