「辺りは俄かに暗くなり、突風が木々を揺らした」
古い記録で読んだのはこのことか、とそのとき周りを見回し強風にからだをすくませた。
日本列島では1987年9月の沖縄で観測して以来、25年ぶりだという「金環日食」があった。
紀伊半島の南端が完全なリングを観測できる中心線上に位置してる、なんてまたとない機会だからと早めに日食グラスを手に入れて、この日を待った。
問題は天気。昨日の昼ごろから落ちてきた雨は夜まで降り続いたが、朝になると上がっていた。
私たちが観測場所に選んだのは、この潮岬台地でも最も高いところにある共同墓地の駐車場。
一緒に見たのは幼稚園と小学校に通う姉妹とその母親。お互いが持ってきていたグラスを交換しながら楽しそうに観測していた幼い2人は、今日のことをどんな風に記憶するのだろうか。
雨上がりの空は、雲が三層に重なり東から西に向かって流れていた。それぞれスピードが違うため、雲の切れ目から太陽が顔を出す。ゆっくりと時間をかけて月と太陽が重なる様子を観測するには、時おり雲に隠れるのはちょど良いインターバルだった。
午前7時半ごろ、美しい金環となった。
観測中、日が照ったり翳ったりを繰り返していたが、そのとき一段と辺りは暗くなった。風は朝から上着を着ていても寒いくらい吹き続けていたのが、さらに強い風がうなりを上げた。
ともあれ、天空に輝くリングと地上の変化が、妙にも奇妙にも感じる時間だった。
太陽の活動が弱まっているとかで、本来なら初夏の陽気があってもいい季節なのに、気温は上がらず冷えたからだはなかなか温もらない。
地球温暖化より寒冷化の心配の方がリアルな様相となり、異常気象が常態化してきている。
こういう時、天変地異というものがやってくるんやろなぁ、と途方に暮れるしかないのか。