一番好きな映画監督
川島雄三 の作品で初めて観たのが
「洲崎パラダイス・赤信号」
赤線として賑わった、洲崎遊郭へと渡る橋の袂にある 飲み屋が舞台となった。
新珠三千代 の色っぽさと、
芦川いづみ の純情可憐さが 印象に残っている。
川島雄三は、一貫して喜劇映画や風俗映画など 一級品の娯楽作品を撮った。
彼の代表作とされているのが、古典落語「居残り左平次」に題を採った
「幕末太陽傳」
主演の
フランキー堺 が水を得た魚のごとく、縦横無尽八面六臂の活躍で真骨頂を
発揮した。映画史に残る傑作である。
個人的に大好きなのは
「わが町」 や
「貸間あり」 などの大阪を舞台にした作品。
特に
織田作之助 原作の「わが町」は、
辰巳柳太郎 扮する〈ベンゲットのたあやん〉
人力車引きの佐渡島他吉と、河童(がたろ)路地の住人たちの 人情溢れる触れ合いが
描かれていて、映画ならではの愉悦を味わうことが出来る。
自ら[軽佻浮薄派]を名乗った川島雄三は、しばしば露悪趣味だの自虐的だの言われた。
またシニカルでデカダンなどとも評された。わずか20年 52本の監督歴のあいだ、松竹
日活 東宝 大映 と渡り歩きながら、面白いと思う映画だけを撮り続けた。
私はむしろ彼を ユーモアに富んだニヒリストだとしたい。
彼の人間性は、好んで使っていた 「花に嵐のたとえもあるぞ サヨナラだけが人生だ」の
言葉に凝縮されている。ちなみに「洲崎」の蕎麦屋の名前は、「だまされや」だった。