ソーシャル・ネットワーク全盛の世にあって、どこにいても情報は容易に手に入るようになった。
その点では田舎暮らしでも不自由しないはずだが、小生の場合はいささか事情が異なって、情報入手はほとんど新聞に限られる。こんなところで駄文を書き散らしながらいうのもなんだが、この電脳空間にあまり馴染めないため、パソコンを開くことは少ない。
その新聞の国際面(5日付)で「韓国の詩人金芝河氏39年ぶり無罪判決」という記事を見つけた。
<韓国の朴正熙(パク・チョンヒ)政権下で、多くの民主化運動家らが連行され、8人が死刑になった「民青学連事件」で、死刑判決を受けた詩人、金芝河(キム・ジハ)さん(71)に対する再審が4日、ソウル中央地裁であり、39年ぶりに無罪が言い渡された。金さんは1970年、財閥や国会議員を痛烈に批判した風刺詩「五賊」を発表して投獄され、74年には死刑判決を受けた。日本でも救援活動が起き、評論家の鶴見俊輔さんや作家の大江健三郎さんらがハンストで朴政権に抗議。金さんは減刑されたが、約7年間投獄された。(ソウル)>
「灼けつく渇きで」
夜明けの裏通りにて/お前の名を書く 民主主義よ/わが念頭からお前が去ってすでに久しい/わが足がお前を訪なうことを忘れて あまりにも久しい/ただ一筋の/灼けつく胸の渇きの記憶が/お前の名をひそかに書かせる 民主主義よ 明けやらぬ裏通りのどこか/足音、呼子の音、扉を叩く音/一声長いだれかの悲鳴/うめき声、哭き声、ため息、そのなかに、わが胸に/深く深く刻まれるお前の名の上に/お前の名の孤独な輝きの上に/よみがえる生の痛み/よみがえる青あおとした自由の想い出/よみがえりくる 捕らわれて行った友らの血まみれの顔 震える手 震える胸/震え こみ上げる怒りをこめて板ぎれに/白墨で、ぎこちない手つきで/書く 息をこらしむせび泣きつつ/お前の名をひそかに書く/灼けつく渇きで/灼けつく渇きで/民主主義よ 万歳
京都在住のころ、金芝河氏らの救援運動をしていた人たちと交流があり、その名前を目にして懐かしさすら覚えた。当時の韓国は朴正熙の軍事独裁政権で、72年には全国に非常戒厳令を発した(維新体制)。民主化運動をしていた人らは次々と冤罪で逮捕され死刑判決を受けた(人民革命党事件)。日本でも同じような「大逆事件」がある。民主化した儒教の国でその娘が大統領になった。
ちなみに前回投稿した阪本順治監督の『KT』は、大統領候補の金大中が日本滞在中にKCIA(韓国中央情報部)に拉致された事件(73年)をテーマにしたものである。