『皿屋敷』といえば、お菊さんが皿を「いちま~い、にま~い」と数える怪談物の定番である。
有名なところでは江戸の『番町皿屋敷』と姫路の『播州皿屋敷』があり、講釈や浄瑠璃、歌舞伎などの題材として脚色され上演されてきた。どうやら各地に似たような話があるとか。
小生が最初に知ったのは子どものころ見た映画だった。地区の集会所の役目も果たしていた青年会館(地元では「かいど」と呼ぶ)が臨時の映画館として、主に東映の時代劇映画を上映していた。
当時は町内に常設映画館が2館あったのに、今は車で1時間の新宮(地元では「しんぐう」でなく「しんぐ」)まで行かないとない。時代が新しくなるほど生活が不便になる。
マクラが長くなった。今日の『皿屋敷』は大人になってから聴いた上方落語でおつきあいを。
伊勢参りから帰った松っつぁんが、道中で播州の姫路からやと話したら「あの『皿屋敷』のあるところでんな」と聞かれ、知らずに恥をかいた。物知りの六兵衛さんに尋ねたところ、「それは『車屋敷』のことや」と教えてくれた。さらに今でも井戸から幽霊が出てくるとも。そんならとホンマもんの幽霊みたさに屋敷跡へ出かけようとするが、お菊さんが皿の数を「くま~い」まで数えるのを聞いたら死んでしまうから、「ひちま~い」くらいで逃げて帰ってくるよう念を押される。
その日の夜、遊び仲間揃って車屋敷へ行って皿の数七枚のところでうまく逃げ帰ったが、お菊さんがあまりに別嬪だったものだから次の日も出かけることになった。評判のお菊さん見たさに近郷近在から人が押し寄せるようになり、人がいっぱいで逃げように逃げられなくなったある晩、お菊さんが十八枚まで数えるのを聞いてしまった。「皿が九枚しかないから殺されて恨めしいと出てくるのに、十八枚やてどういうことやねん」と文句いうたら「風邪引いたから2日分よんどいて明日の晩休みまんねん」でサゲとなる。
こうやってあらすじを文字にすると無粋でつまらんが、これが高座にかかればめっぽう面白くなる。なんといっても怪談譚を爆笑のネタにしてしまう噺家さんの芸には恐れ入った。
近ごろ自分の無知を棚に上げて、伝統芸能を経済の論理で語ろうとする無恥な首長がいるが、取り巻きにも六兵衛さんのような、まともな物知りはおらんのかいな。