昨日(1日)午後、大野一雄さんが横浜市内の病院で亡くなった。103歳だった。
90歳を過ぎても現役最高齢の舞踏家として舞台に立ち続け、世界中のダンスファンに感銘を与えた。最後に大野さんの踊りを拝見したのは10年ほど前だったか、体は十分に動かないまでも色気は失っていなかった。瑠璃のごときその姿は、衰えを知らぬ凛々しい精神の高ぶりを惜しみなく発散していた。
2~3年前、療養中の大野さんをテレビで見たことがある。車椅子に乗って半ば呆けているような状態で、それでも踊っていた。文字通り死ぬまでダンサーであり続けたのだろう。
これから大野さんは、その踊りに魅了された人々の記憶の中で生きていくことになる。
私にとっての大野一雄は長野千秋さんが撮った映画三部作「O氏の肖像」「O氏の曼陀羅」「O氏の死者の書」で衝撃を受け、その後東京で「ラ・アルヘンチーナ頌」と「死海」の公演を見た。
舞台や映画は強烈な印象を残したのはもちろんだが、大野さんから最初に思い浮かべるのは、窓からこぼれる柔らかな光のイメージである。
秋の日の昼下がり、横浜にある大野さんの自宅の居間で紅茶をいただきながら過ごした、至福のひとときは忘れることができない。窓から庭が見えて日差しが温かかった。ゆっくりと思い出しながら、母親のことやアルヘンチーナの踊りの素晴らしさ、そして死海へ行ったときの様子を話してくれた素顔の大野さんは、物静かで穏やかな表情をしていた。
昨年6月にピナ・バウシュが亡くなり、今年は大野一雄が逝った。ダンスの世界も確実に世代交代が行なわれている。訃報を聞いて私にできるのはただ合掌することだけである。亡き人を思う。思うことで私の中で生き続けていく。
ところでダンスの現況はどないなっているのやろ。田舎に引っ込んで情報に疎く舞台も見てないし、新しい動きに取り残されてしもたなぁ。