99年9月に橋が開通したため地続きになった「元」離島の古里で、身を潜めるように暮らしているしがない中年男にも頻繁に外国へ出かけていた時期があった。
中学1年生で出会った英語「ジス・イズ・ア・ペン」が外国人の喋る英語とは大きく違うことを知ってから授業に興味を失くし、そのことがトラウマとなって外国語コンプレックスに取り付かれてしまった。ゆえに何度も異国へ行ったものの、とうとう彼の国の言葉を身につけることができないまま、片言の数少ないボキャブラリーとゼスチャーでしのいできた。
そんな無鉄砲な輩でも出発前には単語集を片手に、多少の勉強はするものだ。
「アサンテ サーナ」はケニアへ行く前に覚えたスワヒリ語で「どうもありがとうございます」と感謝を表す言葉。ちなみに「こんにちわ」は「ハバリ ガニ」か「ハバリ ヤコ」。向こうから先に声をかけられたら「ムズーリ サーナ」と応える。だったと思う。
何年も前のことで記憶もいい加減だし、なにしろ語学のセンスはない。
そのとき現地で覚えた好きな言葉の一つに「ポレポレ」がある。「のんびり、ゆっくり歩く」「散歩する」という意味だったと理解している。知らない町を歩き回るのが好きな性分だからよく「ポレポレしてくるよ」と言って出歩いたものだ。
ちなみに友人が大阪で「ポレポレ」と言う名の飲み屋を開いている。
「ポレポレ」がすっかり気に入り、それからというもの仕事に追い立てられあくせくと余裕がないときなど「ポレポレやればええんや」と自分に言い聞かせるようになった。
もっとも失業中の今は「ポレポレしすぎや」とお叱りの声がどこからか聞こえてきそうだが。